1. マルコポーロからシーボルトまで、西洋人が描いた日本地図の変遷
貴重な古地図コレクションを公開する企画展『西洋人の描いた日本地図~マルコ・ポーロからシーボルトへ~』が、東京・渋谷のBunkamuraにて、本日2019年3月24日(日)より31日(日)までの期間限定で開催されます。開催前日に取材した模様を踏まえ、展示のみどころをご紹介します。
会場外観
株式会社ゼンリンは、イギリスの古地図収集・研究科、ジェイソン・C・ハバード氏より692点の古地図を新たに取得しました。本展は、16世紀から19世紀にヨーロッパで作られた西洋古版日本地図30点余りを厳選し、西洋人が描いた日本地図の変遷を目的や背景とともに紐解き、地図の新たな魅力を紹介する企画展です。
会場は東京・渋谷のBunkamura Box Gallery(1F メインロビーフロア)をメインに、同じく1FのWall Galleryにも一部を展示。どちらも無料で楽しめます。
『Box Gallery』では3つのSectionに分類し古地図を展示。西洋人による黄金の国ジパングの発見から、現在の日本に至るまでの変遷を、一連のストーリーで紹介しています。Section毎のイチオシをご紹介しましょう。
リンスホーテン『東アジア図』
<Section 1>想像で描かれた黄金の国『ジパング』から実在の国『日本』へ
13世紀末にイタリアの商人マルコ・ポーロの『東方見聞録』により日本が黄金の国『ジパング』として紹介されます。
ジパングが初めて西洋の地図に描かれるのは15世紀の大航海時代になってからですが、この時代の日本像はいずれも想像により描かれたもので、位置も形も現実の日本とはかけ離れたものでした。
みどころ
No.1 ポルドーネ『日本図』1528年
日本が単独で描かれた西洋初の日本図。『東方見聞録』に基づき、まったくの想像で描かれ、地図上に『Giampagu』(ジパング)の名が印刷されています。
No.4 リンスホーテン『東アジア図』1595年
東洋の事情を西洋に紹介したオランダの航海者リンスホーテンの『東方案内記』所収の地図。集めた情報を元に描かれた日本がどこに描かれているのか探してみましょう。
ブランクス / モレイラ『日本図』
<Section 2>近代日本地図の夜明けと鎖国時代の日本地図
1582年、ローマ教皇に謁見した天正遣欧使節をきっかけとした日欧の文化交流により、西洋における日本地図製作に長足の進歩をもたらします。
しかし1639年に日本の鎖国政策により状況が一変。日本の情報はごく限られたものとなり、西洋における日本地図製作は、日本で作られた地図の模写図の出版などに留まります。
No.6 ブランクス / モレイラ『日本図』1617年
蝦夷(北海道)を含む66国すべてを網羅した最初の日本地図。世界で1点しかみつかっていない、非常に貴重なもので、本展最大のみどころです。
No.7 ダドリー『日本図』1646年
本州北方に、東西に果てしなく広がる蝦夷(北海道)がアジア大陸の一部として描かれているのが特徴です。
No.15 シャルルヴォア『安土城とその城下町の図』制作年不明
シャルルヴォア『日本史』所収の図。織田信長により建造され、わずか3年で焼失した安土城は、絵図などの資料が少なく、本図のような安土山頂部に建つ城と山麓の城下町が一緒に描かれた鳥瞰図は国内では見つかっていません。
シーボルト『蝦夷と日本領千島地図』
<Section 3>シーボルトの日本図-西洋製日本地図の完成
ドイツ人青年シーボルトが帰国時に、幕府の秘図とされていた伊能図などの持ち出しが発覚し国外追放を命じられます(シーボルト事件)が、地図が没収される前に徹夜を重ねて複写し、ひそかに伊能図の持ち出しに成功します。シーボルトはこの伊能図をもとに日本図を刊行し、北海道・千島・樺太を含む日本の正確な地形を広く世界に紹介しました。
No. 20 シーボルト『蝦夷と日本領千島地図』1852年
シーボルトが日本研究を集大成した『日本』所収の地図。
No.21 ペリー / ホークス編『ペリー艦隊日本遠征記』1857年
米国海軍提督マシュー・ペリーの日本遠征記。ペリーは日本来航前に、ケンペル『日本誌』やシーボルト『日本』などの資料を入念に研究し幕府との交渉に挑み、日米和親条約を締結しました。本書には、シーボルトの日本図を原図にした正確な地図が収録されています。
No.23 シーボルト『日本興地路程全図-関東・中部地方』1852年
江戸後期の代表的民間日本図『改正日本興地路全図』の模写。現在と変わらぬ地名も多く位置関係がよくわかる。軍事図と民間図の目的/描き方の違いにも注目。
<1F Wall Gallery>
壁掛け型の大型地図3点を展示(展示品は複製)。当時、美しく彩色された地図は、絵画と同様に室内装飾品として流行しました。
13世紀マルコ・ポーロのジパングから、約500年の時を経て完成した《西洋製日本地図》のストーリーは、順に眺めていくだけでも面白い。スマホやネットの普及で、地図を使う機会がより身近になった昨今こそ、地図の歴史を振り返る良い機会です。展示会場は、デートやおでかけの合間に立ち寄りやすい渋谷のBunkamura。入場無料なのも嬉しいですね。
(取材・文・撮影/落合 宏樹)